私と鍼灸との出会い
吉本隆明「共同幻想論」「心的現象論」などに影響され、大学では心理学を学びました。結婚、出産。会社員生活を続けるうち、気管支喘息の発作に見舞われるようになりました。夜間救急で点滴をうけることも出てきました。
「東洋医学」にピンときて、近所に気功教室を見つけました。中国の医師免許を持ち、西武ライオンズの選手を外気功で治療している先生でした。いつも「喘息のある川上さんには練功(気功の練習)が大切。あまり練功していませんね」と見抜かれていましたが、旅行先のカナダ氷河の真っただ中で喘息発作が出た際に、気功のおかげで喘息発作を治めることができました。先生の故郷である新疆ウイグル自治区、ウルムチを訪れ、ご家族に大変親切にしていただいた楽しい思い出があります。
考えてみると喘息は明らかに仕事のストレスから来ていました。以前は今のようにインターネットは一般的ではなく大学間での学術論文のやり取りだけでした。私の仕事は銀行や企業の全国オンラインネット作りの営業でした。膨大な専門知識が必要になります。もちろん、専門の技術者のサポートがありますが、自分でも勉強が必要です。私は追い付けずに勉強にも興味が持てなく、ストレスを抱えていました。
思い切って家族に相談、鍼灸専門学校に通うことができました。ここでの3年間は人生で一番勉強した時期でした。首席で卒業後、母校の筑波大学理療科教員養成施設で2年間の研修を受けました。
東洋医学と言っても、日本の鍼灸は大きく「現代医学的見地からの治療」と「東洋医学的見地からの治療」に分かれています。どちらも切り口は違えど、病を治すという目標は同じですが、人間をどのように見るか、世界をどのように見るかの視点が大きく異なります。どちらも補完しあうことが大切と考えています。東洋医学的視点のほうでは、海老原譲治先生、小林昭司先生に、現代医学的視点のほうでは、筑波大の宮本俊和先生に師事しました。
海老原譲治先生は、慶応義塾大学で経済学の修士を修められた方です。「川上さんは資本論は読んでいますか?」切ない質問に身を縮めながらも、多くを教えていただきました。現在、地域で「易」講座を行っていますが、これも、海老原先生から手ほどきを受けたものです。
学生時代には家族や知人友人を治療させてもらいました。小学生の娘が夜間に高熱を出し、小指にある少沢に刺絡をすることで、朝には平熱に戻っていたこともありました。私は鍼灸の素晴らしさを確信し、精進あるのみ、と決意しました。
三田の地に治療院を開き15年目になります。ケアマネージャーの資格も取りました。鍼灸を通じて感じることは、人間は身体だけではなく、心も健康でなければ健康にはなれない、ということです。身体と心とが共に健康になって初めて「幸せ」といえるのではないでしょうか。
こころ、精神については、現在までずっと私のテーマとなっています。学生時代は、自律訓練法の佐々木雄二先生、臨床心理学では内山喜久雄先生に師事しました。卒業後も先述した吉本隆明、フロイト、ユング、河合隼雄から始まって、現代心理学、瞑想法、暗示、興味の向くままに読んできました。数年前から縄文、古代史、民俗学、民族学にも広がってきました。
鍼灸に話を戻します。鍼灸治療は、髪の毛よりも細い鍼で、身体に触れるだけ、あるいは、ほんの2,3ミリ刺します。この物理作用により、「気」を調整して、身体の偏りを取り、病の大本となる「冷え」を取ります。「気」の調整には、施術者の技量が大きく作用します。毎日の精進が必要な所以です。
自分の身体は自分で治すことができます。それには、「気」の感覚を養うことが必要です。まず、初めの一歩として「身体の声に耳を傾ける」ことから始めていきます。
2017.3月吉日